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遠くに馬車が見えるが距離が中々縮まらないでいた。
「銃があれば、そうだ! 先生、少し木の近くによって」
「あ? 何で?」
「いいから!」
ヒルダにそう言われるとリゲルは木に近寄る。
ヒルダはその木の枝をぼきりと折り、地面に落ちている小石を拾うと自分の髪を括っている赤い布を取った。
「先生、馬車の直線上に走って、狙うから」
ヒルダは即席で作ったパチンコを持つと、リゲルの背の上で立った。
手紙を石で包むと狙う。
「おいヒルダ」
「ごめん、先生少し黙って、ここだ!」
ビュンと風を切る音がすると馬車の中に狂いなく手紙は届いた。
馬車は何事が起きたのかと動きを止める。
「よし一件落着」
「おい!」
「何?」
「王宮行きの馬車狙ってただで済むと思うのか?」
「そうなの?」
「捕まったら罰を受けるぞ」
「逃げよう先生」
森に戻ると男を手当し、手紙は届けた事を伝えた。
「本当にありがとうございました」
「いえいえ」
「こんな田舎町にこんな凄腕の運び屋さんがいるなんて、色んな国で紹介させてもらいます。狼を連れた運び屋さんなんて珍しいですからね。会社名は?」
まだ開業すらしていない。
もちろん名前なんてない。
リゲルを見つめるが顔を背けられたので、ヒルダはムッとして言った。
「オオカミ印の赤ずきん便です」
「ヒルダお前!」
「そうですか、それは分かりやすい。これお礼に」
銀貨を受け取ると、男を村の病院に連れて行き小屋に戻った。
「あぁ、今日は疲れたなぁ。たまには労働もいいねぇ。何かぱーっとご飯食べて寝よう! そうしよう!」
「ヒルダ、ご苦労様」
「いやぁ、そんなそんな」
「何か忘れていないか?」
「ないねー、やりきったよホント」
「そうか、そういえばオオカミ印の赤ずきん便という名前だったな」
「あー、あれね。結構良いネーミングでしょ?」
「あぁそうだな」
「リゲル先生もそう思う?」
「それなら看板がいるよな?」
妙に優しい顔をするリゲルとヒルダはポタポタと冷や汗を流す。
「木を伐りに行くぞ」
「嫌ぁあああああ」
かくしてヒルダとリゲル先生のオオカミ印の赤ずきん便の開業が始まった。
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