第一章 ジオテラス編

1/32
前へ
/248ページ
次へ

第一章 ジオテラス編

★ 『配達物はパン屋さん』 「こんにちわー、オオカミ印の赤ずきん便です! 宜しくおねがいしまーす」  ヒルダの仕事はビラ撒きから始まる。  さすが田舎といえども大きな街への中継となっている為、受け取ってくれる商人達は多い。 「私が言うのもなんだけどさ。ベルンより大きな街で商売した方がよくない?」  リゲルはビラ撒きをしているヒルダの隣で大人しく座りながら答えた。 「ここは新人商人の修行に持ってこいだからな。それはヒルダ、お前もだ」 「そうなの?」 「あぁ、創業三年までの者は税金がかからないからな。ここである程度の経験と資金を得て、みんな大きな街の組合に加入して行くんだ」 「へぇ~、みんな大変だねぇ」  人ごとみたいにビラ配りをするヒルダにリゲルは溜息をついた。 「それはお前もだぞ?」 「私は大丈夫だよ。クロイツ運送に加入するから」 「お前、クロイツ運送も大きな組合に加入してるんだぞ。しかも加入する為に必要な条件が厳しいから今のお前じゃ逆立ちしたって無理だろうな」 「じゃあどうしたらいいのさぁ!!」 「まずは働け、そして死にものぐるいで金を集めろ」  ヒルダは地面に座り込んだ。 「おい、そんなに落ち込むなよ。真面目に働けばちゃんと見返りがあるもんさ」  ギュルルルルルル!  ヒルダの腹の中のモンスターが鳴き声を上げる。 「おなかすいた」  ヒルダは落ち込んだわけではなく、空腹で力が抜けただけだった。  呆れたように溜息をつきリゲルは言った。 「とりあえず朝食にするか」 「うんうん! そうしよう」 「全く、私が若い頃は朝食なんて抜きで昼まで働くのが普通だったんだけどな」 「そういうの良くないって本に書いてあったよ? 朝食は一日の栄養です。しっかり沢山食べましょう!」  そう叫びパン屋に向かうと、ショートカットの少女がヒルダに手を振り出迎えた。 「ヒルダさん、いらっしゃい!」 「やぁやぁミリアちゃん、パンケーキを食べに来たよ! 蜂蜜をたぁーぷりかけたのをくださいな」  森のパン屋の看板娘ミリア、その愛らしい容姿と王都で売られる物に匹敵するくらい甘いパンを出す事で隠れた人気のパン屋さん。  ヒルダも初めてここでパンを食べてから大ファンになった。
/248ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加