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言葉が欲しかった。いつも不安で不安で仕方ない。いつあえるか分からない秀ちゃんだから言葉が、態度や身体ではなくて、言葉が欲しかった。つき合って5年。今の一度も好きと言ってくれたことはない。
「無責任な言葉は言えないから。きちんと言えるまで待っていて欲しい」
キッパリと言われたのが2年前。
あたしはいつまで待てばいいの? すっかり30歳になってしまった。
「今度はね、現場事務所あるんだよ」
「そう。行くわ。いつから? 工期は?」
「んと、もう、下掘ってあるからね、明日は重機くるしな」
頭の中に工程表がある秀ちゃんはメモをしない。
「再来月の終わりくらい、かな」
かな? また、あやふやね。
あたしはクツクツと小さく笑う。
禁忌な倫理に反した恋。コンビニを施工する秀ちゃんの姿が目に浮かぶ。
「オープンセールするわね」
「ああ、だね」
あたしたちは、無言のまま車に乗って、行きのように手を恋人繋にして帰路を、別々の帰路を目指している。
「あ!」
秀ちゃんが最近監修したコンビニの前を通った。
「どこをみても秀ちゃんがいるわね」
夜のネオンが眩しいのか、秀ちゃんはメガネをかけた。
「どこって、俺はここにいるし」
ぎゅっと手を握る。あと、少しでまた離れてしまう。あたしはこみ上げるものを押し戻すよう、窓の外に目を落とす。
ガラスにうつったあたしの顔。
頬に伝う温かい液体は、ネオンに紛れ、綺麗だと思う。
「、ごめんな」
秀ちゃんの声がする。どうやらあたしは肩を震わせているようだ。
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