ないしょだからね

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「まじでさ、またコンビニだし」  彼はまんざらでもないのに全く何軒まかすんだよなぁ、と言いよどみながら、あたしの方に目を向けた。  左手はいつもあたしの右手を包み込むように握っている。手汗かいちゃうよ。なんて言えない。汗よりも温もりのほうが凌駕している。 「また、なのね。今度はどこらへんなの?」  彼は現場監督だ。今まで監修したコンビニはそれこそそこら中にあるし、あたしはそのコンビニの図面も何個ももらっている。 「まゆの会社の近くにあるコンビニあるだろ?あそこ」  え? 嘘? あたしは、わりと大きめな声をあげ、え? やっぱり秀ちゃんだったんだね。と、付け足す。 「でさ、」秀ちゃんは、でさ、と続け、 「嘘だろ?って言う程また近くにも同じ系列のコンビニができるんだよね。こっちのほうが嘘?って言いたくなる」  嘘? あたしも秀ちゃんと同じ言葉を並べ、顔を見合わせクツクツと笑った。  夕方の5時。おもては秋の気配を纏いつつ、トンボがうようよと低空飛行で飛んでいる。 「秀ちゃん」  あたしは秀ちゃんの名前を呼んでみる。 「なに?」  どこに行くのかしら。そう訊こうと思っていたのに、口と心が伴わず、 「あたしのこと好きなの」  心の中の声を吐いていた。  片手はハンドルを片手はあたしの手を握る秀ちゃんの顔色が曇った。しまった。あたしは質問したことを後悔した。 「あー、じゃなくて、どこに行くのかなーって」  握っていた手をそうっと離し、 「今日さ、内装の入った方のコンビニに行くよ」  やはり手汗をひどくかいていて秀ちゃんは首に巻いてあるタオルで手を拭った。 「わ? もしかして、中に入れるの?」 「うん、入れるよ。だって俺が鍵持ってるから」  わーい、あたしは、子どものようにはしゃいだ。建設途中のコンビニに入れるなんて現場監督とつき合わない絶対にあり得ないから。 「でも、秀ちゃん、どうせ鍵もっていても、ポストに入れてあるんだよね」  どの現場でもそうなので敢えて問うてみる。想定内だけれど。  あたりまえだ。と言わんばかりにうなずいて、あたしの頭をそうっと撫ぜた。 「南京錠の番号はね」 『ごくろうさん』    2人の声が重なった。  お互いに顔を見合わせつつ、ケラケラと大きな声を出し笑う。こんな些細なことで笑い合えるなんて。秀ちゃんがまずいほど好きだからだ。
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