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拾った雛は幸福の神ではなく疫病神。
そう思うのに追い出せない。
ひとり泣いて涙の跡がある雛を放っておけない。
ましてや、狼の花嫁になどできるわけない。
「遼太郎…?」
腕に力がこもる。
初めて見たものを親と思い込んだヒナのように、絶対の信頼でついてくる。
俺はただ警察と関わるのが嫌だっただけ。
すぐに雛の素性が知れると思ってた。だから。
16、17歳のガキに振り回されて、それでも突き放せない。
「……傷、痛むんでしょ?」
「?」
「下ろして、わたしちゃんと歩けるから…遼太郎、無理しちゃダメだよ」
雛が訴えるも離せない。
離せばどこかへと連れ去られてしまうような気さえする。
「遼太郎、下ろして」
「黙ってつかまってろ」
「でも、傷が」
青みがかった目で見上げしゅんとする。
あの男、銀が大事そうに雛を抱えてた。
許嫁だと―――
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