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突然、犬が男の腕に飛び掛かりその一瞬の隙をついて脇腹を押さえ体勢を立て直す。
うわあっ、
声に振り向くと取り囲んでいた奴らの手足に噛みつく犬たち、いや狼がいた。
銀の瞳、銀の毛並み。
その奥から泣きながら走ってくる女。
「…来るな…」
壁に寄りかかりこっちへ来るなと叫ぶも腹に力がはいらない。
雛を拐ってく狼がいる―――
「遼太郎っ、…やだ、血が」
「……来るな、おまえが危ない」
屈み込み脇腹を押さえる雛の手を払い逃げろと告げた。
狼たちは悲鳴をあげる連中の胸を押さえつけこっちを向いた。
「雛、…逃げろ」
「遼太郎を連れてかなきゃ…お医者さまのとこ」
「…俺はいい、…逃げろ」
俺はひとりでも大丈夫だ。
ポロポロと涙を流す雛は首を横に振った。
と、その背後にあの銀と名乗る男が現れた。
銀の瞳。
雛をみつめ、それからため息をついた。
「わかった。こいつを運ぶんだな」
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