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エピローグ.青海川駅
この駅は、プラットホームから日本海が見え『海に一番近い駅』として知られている。
ごうごうと音を立てる荒波は、全てをかき消すかのようだ。
「奇麗だね」
「はい……、こんな素敵なところがあるんですね」
二人並んで海を見つめる。今日は珍しくほかに人がいない。
私はたまらずに、でも彼に最大限に気を使って、自分の想いを言葉にした。
「いますぐにつきあって、なんて言わない。あなたの心のなかに美菜子がまだいることぐらいわかってる。そのつらさ、悔しさを私にぶつけてほしい」
彼の目を見つめて、私は続ける。
「武史くん、好きです」
「夏乃さん……」
ふたりとも見つめ合って、そして、私は彼を抱き寄せた。
背はふたりともおなじぐらい。はじめて触れる彼の身体が温かい。少しだけ心臓の鼓動を感じた。
何分かして、彼は言う。
「ありがとう。夏乃さん」
「ううん、いいのよ」
今の返事はありがとうでいい。けれどもいつか恋人として歩きたい。そう思った。
「こんなこと言うと軽い男だって思われるかもしれないけど、夏乃さん、やさしくて美菜子さんに負けないぐらい奇麗で、好きになりそうです」
「結局外見なの? もう!」
そう言いながら、武史を小突く。純粋で正直な彼がやっぱり好きだ。
「お昼も近いし、新津にご飯食べに行きましょうか。美味しいわよ。このへんは米どころだから」
「あ、はい」
彼の傷を癒して、ありがとうじゃない言葉を聞くために、再び私は彼と旅に出る。
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