3.上越新幹線 Maxとき305号

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3.上越新幹線 Maxとき305号

 私は有無を言わせず武史を連れて、白と青のツートンカラーの二階建て新幹線に乗り込むと、すぐにドアが閉まって動き出した。  一瞬のことだったので、サークルの仲間は私たちが消えたことに気づかないだろう。  眺めのいい2階に席を取った。上野を出て大宮まで、埼京線にほぼ沿って走り、車窓からは住宅地が見える。  武史が話しかけてきた。  「これに乗って、どこへ行くんですか?」 「決まってるじゃない、直江津よ。美菜子より先に着いて、二人きりにしてあげる」  それを聞いた武史は驚いて、 「え!? そんなこと出来るの!?」 「大丈夫、私に任せて」  去年合宿と称した鉄道乗り継ぎの旅で得た記憶を手繰り寄せ、スマホのアプリで判断が間違いないことを確認した。  車掌さんが検札に来たのできっぷを購入。二人ぶんで15,540円もした。当分ガチャはガマンだ。武史が頭を下げてくれた。  新幹線は大宮を過ぎてさらに北へ、熊谷、本庄早稲田は通過。高崎観音を左に見て、高崎駅に8時38分着。  一瞬、思い切って私の想いを伝えようと思った。  けど、トンネルに入って車窓に私の顔が写る。メガネをかけた地味な女がそこにいた。  武史は美菜子が好きなんだ。彼のために旅に出たんだと自分に言い聞かせ、思いとどまった。  上毛高原に停車。月夜野と名付けられた小さな街が右手に見える。夜に来たら綺麗だろうな……、色々思いを馳せるうちに、アナウンスが流れてきた。 『まもなく、越後湯沢です。上越線はお乗り換えです』 「ここで降りるわよ」 「? ここで、ですか?」 「乗り換え」 「はい……」  越後湯沢駅に9時8分に到着、彼を連れて1番線に向かうと目指す電車はすでにホームにいた。 「超快速スノーラビット、直江津経由新井行、これに乗るわよ」 「か、快速!?」  武史の顔が曇った。超が付いているけど、特急や急行ではなく快速なのだ。電光掲示板には直江津の文字が見えるけど、北陸新幹線に乗っている美菜子に追いつけるわけがないと言いたげだ。 「これで本当に追いつけるんですか? もしかして先輩、本当は旅行したいだけなんじゃないですか?」  それが出来ればと何度思ったか。 「だから大丈夫だって言ってるでしょ! とにかく乗って!」  強引に彼の手を掴んで、2両の白い車体に赤いラインが3本入った電車に乗り込む。  ほどなくドアが閉まり、上越線を北に向けて走り出した。
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