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「題して、そのまま終わるつもりがない電車。キミが乗るのにピッタリでしょ?」
「……うん」
表情が少し緩んだ。美菜子に彼氏がいるという話は聞かないし、いざ付き合い始めれば、遠距離でもなんとかなるはず。
彼が幸せになれるサポートが出来るなら、私はそれでいい。そう思っていた。
9時49分、まつだい停車。難工事だった鍋立山トンネルを通り、ほくほく大島を通過。9時59分に虫川大杉着。
ここでも急ぐように発車。今度はゆっくり来たいなと思いながら、二人でのどかな田園地帯を眺める。
うらがわら、大池いこいの森、くびき、犀潟。これらの駅を通過すると信越本線に入る。再び時速を落とし、黒井を通過。
今度の小説はここを舞台にしようかな……、と、気を紛らわせているうちに10時14分、時間通り直江津に到着。
2分後に十日町行の観光列車「越乃Shu*Kura」が入線、計算通り美菜子が降りて来た。
すぐさま彼女のところに向かうと、驚いた表情を見せた。
「すみません、武史くんが話があるそうです」
そう言って私は二人をホームの端へと促した。おそらく駅には迎えの人がいるだろう。もうここしかチャンスはないのだ。
二人の声は聞こえない。 そして数分後、私のところに二人が戻ってきた。
「夏乃さん、ちょっと話があるの、来てくれる?」
思いがけぬ彼女の言葉に驚きながら、今度は武史を置いて、私と美菜子がホームの端に移動した。
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