5.直江津駅

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5.直江津駅

「夏乃さん、武史くんに告白させるために、ここまで連れて来たそうね」  美菜子が問い詰めるような口調で私に話してきた。 「はい。武史くんのために」 「そう」  一息置いて美菜子が続ける。 「みんなに黙ってたのは悪かったけど、私ね、結婚するんだ」  なっ……、私は驚き、しばし絶句した。 「そんなだいじなこと、なんで黙ってたのよ!」 「みんなに気を使わせちゃうでしょ。ここまで来てくれたから言っちゃうけどさ」 「でも、それじゃ、武史は……」 「当然、お断りしたわよ」  お断りしました、で終わられても困る。 「それじゃなんのために、私、いままで頑張って来たのよ!」 「は? なに勝手にキレてるの? こっちにだって事情あるんですけど」  美菜子もキレ気味に返してきた。こうなると、私は意地になってしまう。 「だって、武史があなたのことが好きだって言うから、彼が幸せになるようにってここまで連れて来たのに、結婚するなんて言われたら、立場無いじゃない」 「なるほど。どおりでくっつけようオーラがただよってたわけだ」 「き、気づいてたの?」 「気づいてたに決まってるじゃない。わざとらしく二人きりにしたり、三人で食事に行ったのにあなただけ居なくなるし、挙げ句の果てに直江津まで連れて来ちゃって、そう都合良く行かないわよ!」 「だって、私も武史のことが好きなんだもん! 好きな人の幸せ願って何が悪いの!?」  私は感情的になるばかり。対して美菜子はあくまで冷静だ。 「だったらあなたが武史を振り向かせればいいじゃない」 「でも、武史くんは美菜子さんが好きだって言うし……」 「だからってあきらめちゃうの? 私を追ってここまで来られるんでしょ? だったら振り向かせることだってできるじゃない!」 「でも私、地味だし、美菜子さんと一緒の方が彼は幸せなはずだもの、それなのに結婚するだなんて……」 「でもでもばっかりじゃない!」  美菜子が段々強い口調になって来た。そして、 「いい加減、自分をさげすむのやめたら!?」 「だって私、あなたみたいに美人じゃ無いし」
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