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6.信越本線普通列車
私と武史は、直江津駅10時58分発の普通列車に乗っている。2両の銀色の電車だ。
席は隣どうしだけど、無言のまま。
あのあと、美菜子にハッキリ言われた。
「勝手にくっつけようって言うのは、正直迷惑だよ。こんなことはもうやめてね」
さらに彼女のチャームポイント、二重まぶたはメイクで作っていたことまで見せてくれた。
きわめつけは別れ際のひとこと。
「夏乃、頑張りな。振られた後の男はオチやすいよ。じゃあね!」
言うだけ言って去って行った彼女を、私たちは黙って見送ることしかできなかった。
そして、なんとなく海でも見に行こうかと思い、この電車を選んだ。
武史のためにと思ってしたことが、こんな結果になってしまった。責任を取らなければばならない。
彼はなにも言わない。振られてしまった後となれば当然だろう。
電車は日本海沿いを走って行く。ガタンゴトンと、規則正しい音だけが響いている。
「海、きれいだね」
「うん……」
たまに交わす会話もそんな感じ。ところが、
「先輩、ごめんなさい」
「!? どうしたの急に」
武史がなぜか急にあやまりだした。なにかと思って話を聞いてみる。
「だって、僕のことをこんなに想ってくれてるの、気づかなかったんです。わかってたら、美菜子さんのこと相談なんてしなかった。僕のせいで夏乃さんを傷つけてしまって……」
「ううん、いいのよ」
少し間を置いて、武史は続ける。
「美菜子さん、私のことなんか早く忘れてって言ってました」
「そう……」
「目の前に、想ってくれる人の幸せを願って、自分を投げ出すことができる人がいるんだから、もっと大切にしなさいって」
その言葉を聞いて目頭が熱くなった。
「そ、そんなことを……」
「……、はい。おつきあいの相手を選ぶなら、外見ばかりじゃなくて、中身もちゃんと見なさいって言われました」
「……」
美菜子は、はっきりと指名はしていないが、自分のことをお相手として選ぶように言ってくれたようだった。
とてもうれしくて、言葉にならない。
『まもなく、青海川(おうみがわ)です』
「降りようか」
「ここでですか?」
「うん。海、ゆっくり見ようよ」
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