第4章[許されない関係]

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「えっと…。」 健人はキョロキョロして、腕を組んだり崩したり、顔を触ったりしていた。 「あ、通学大変じゃないか?」 「いえ、勉強しながら通学してるんですよ。」 私は冷静にふるまった、無だった…。 どう頑張っても、何も始めることが出来ない、何も得ることが出来ない。 私の目の前にいる人を失わない為に…私に課せられることは無しかなかった。 彼を、私を心配することから、解放してあげたかった。 とびっきりの笑顔で、私は大丈夫だと必死に彼に伝え続けた。 今の私にできる、唯一の事だった。 「そうか…あと、えっと。原田にでも…。」 「先生?」 「…そうだな、あいつにもあいつの時間あるしな。困ったことがあったらいつでも…アイ?」 健人が不意に私の手をつかんだ。 「アイ?」 「先生?」 あんなに健人を先生と呼びたくなかったのに…いとも簡単に私は彼を先生と呼んでいた。 「えっと…はあ、悪い。教室戻るんだよな?」 「スミマセン。」 頭を下げたとき、抑えきれない思いがあふれそうになった。 「アイ?」 「そんな、そんな風に呼ばないで…どうしてわかってくれないの?」 「アイ?」 「はあ、私が…どんな思いで健人を先生と呼んでると思ってるの?やっと、すらって言えるようになったのに…どうして?私を名前で呼ぶの?もう、一緒にいられないのに。」 私にはどうすることもできなかった。 …あふれ出す涙は、もうぬぐっても止められなかった。 「はあ、ふう、」 「アイ…ごめん、俺がわがままなんだな。お前の傍に居たくて、先生になれば一緒に居られると思った俺が馬鹿だったんだな。」 「え?昔から教師になるのが夢だって…。」 「ああ、お前と出会った時からのな。どうしたら、アイが過ごす時間の中を一緒に過ごせるか。考えて教師って思ったんだ…だけど、そんなに悩ませてごめん。」 健人は私の顔を覗き込んできた。 「…でも!」 それでもやっぱり、私は…。 「アイ?」 あなたが好き…あなたを愛してるから。 「やだな、私のパパとママが死んで同情してるだけだよ。気にしないで…。」 「そんな風に思ってない。」 「ありがとうございます。」 ようやくおさまった涙を私は笑顔に変えて、彼に見せた。 「それじゃあ、教室に戻ります。」 彼の返事を待たずに私は彼に背を向け、「アイ!」と呼ばれても振り向かなかった。 やっとの思いで教室に戻り、私は机に顔をうずめた。 「アイ?健人兄さんとは話ついたのか?」 「へ?」 「ああ…だから言ってるだろ、俺にしとけって。」 「もう!うるさい!」 私は拳を原田の腕にグリグリ押し当てた。 「ハハッ、お前はそうでなきゃ…いてえな。」 「これを食らいたいんでしょ?」 「ダチに酷いな…。」 「させてるのは、どっちよ!」 ふと、廊下に目をやると…萩原先生が教室を覗きながら歩いていた。 「あ、えっと…柏木?」 同情なんていらないのに…。 「はい?」 私は立ち上がるだけ立ち上がって、彼のもとに行こうとしなかった。 「少しいいか?」 「嫌ならやめとけ?」 原田が小さな声で、私に言ってくれた。 「ううん、ありがとう。」 ホームルームまで、時間がそんなになかった。 私は駆け足で、彼のもとに駆け寄った。 廊下に出て、私たちは隣の棟の渡り廊下に向かった。
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