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夜中、のどが異常に渇き、部屋を出てママの様子も気になり姿を探した。
「ママ?お線香の火消えないようにしなきゃ…って言われたのに?」
遺影がなかった。
私は嫌な予感が頭をよぎった。
「ママ?」
玄関に急ぐと、履物もなく扉が開いたままだった。
私は慌てて外へ出ると、遺影を抱えたまま歩いているママを健人のパパが止めている姿が目に留まった。
「ママ!」
「アイちゃん!お母さんは連れて帰るから、家に戻ってなさい。」
「ママ…ごめんね。」
「アイ、パパが呼んでるの…ここにいるから、迎えに来てくれって連れてくるから。」
ママは赤く光る横断歩道へ、一歩踏み出していた。
「嫌!ママ!」
私は何度も、振りほどかれる手をつかもうとしていた。
「親父?」
「ああ、健人…アイちゃんを頼む。」
ママはどんどん走ってくる車の中を歩いて行っていた。
「ママ!」
「親父!アイ…行くな。」
「健人…だって、健人パパだって!」
二人は何とか、分離にたたずんでいた。
「…私が、ママに酷いこと言ったの。」
私の手をつかんでいた健人の手を振り払い、赤く光っている横断歩道へ行こうとした。
すぐに謝りたかった…。
「行くな…俺がちゃんとわかってるから。本心からじゃないってことぐらい…お母さんだって、わかってくれてる。親父がきっと…連れ戻ってくれる。」
「わかってる?私の事?」
「ああ。」
私に優しく微笑んでくれる健人の、その優しさに私はずっと包まれていたい。
「私が健人の事…好きだってこともわかってる?」
今、言うべきじゃないことぐらいわかってたことだけど…。
「ああ、」
一瞬にして彼から笑顔は消えてしまったけど…。
「俺も同じ気持ちだから…アイを好きだって。」
彼のその言葉が、本心だと心に刻まれた瞬間だった。
「アイを失いたくない…アイ、愛してる。俺がすべてを支えてやる…だから無茶するな。」
「うん。」
「よし、いい子だ。」
「健人…。」
「なんだ?」
「健人…愛してる。」
私が彼に思いを告げた次の瞬間、
ママは健人パパが抱きしめるその腕から離れ、走ってきたバイクにはねられてしまった。
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