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ママの葬儀も、納骨も、何もかもがあっという間に終わると…
私は一人ぼっちになった。
私は荷物をまとめていた。
「アイ?ちゃん?」
「はい?」
私は、あの日以来…
私は勉強机に座って鏡を見つめ、笑顔の練習をしてきた。
誰もが心配しない、笑顔でいられるようになった。
「あの家に戻るのか?」
「はい。運よく、ローンも払い終わってて父と母が残してくれた遺産ですし…高校までは遠くなりますけど通えない距離でもないですし。」
「…。」
健人はあの日以来、
私と、どう接したらいいのか答えが出ないようだった。
「健人!お前、アイちゃんの事…好きなんだろ?まだ、そのアイちゃんは幼いから結婚とまではあれだけど、このままいっしょに暮らしてもかまわないんだから止めないと。」
「いえ、健人さんにはこれ以上迷惑も重荷にもなりたくないので。」
「…アイ。」
「学校で会えるし、ね?廣瀬先生。」
練習した成果が出ているだろうか?
「…。」
健人には通用してないみたい…。
もうすぐ、私の誕生日だって言うのに…。
その私を生んだ日を迎えることもなく、自らの命を絶つほど…
健人パパをママは愛してしまったのかもしれない。
私が、健人を愛していることを知っていただけに。
全部、私のせいだ…。
ここにいられるわけがない…。
「健人パパ…ママの事、いろいろありがとうございました。」
「…アイちゃん、せめて高校卒業するまでここで。」
「いいえ。」
「…こんな思いをアイちゃんにさせるとわかっていたら、籍を入れればよかったね。健人?」
「ここにいろ、アイが責任感じる事じゃない。親父から愛する人を奪ったとでも思ってるんだろ?サユリさんがアイの為に死んだとでも思ってるんだろうけど、それは違うぞ。」
「健人?」
「俺が…何も考えずに返事をしたからなんだ、こんな事になるなんて。」
健人はせきを切ったように話し出した、ママが混乱して飛び出した日。
ママに私を頼むと言われ、健人はママたちが籍を入れても妹としてでも守るという意味で返事をしたと。
「アイ、行かないでくれ…親父ごめん、俺アイと結婚したい。ずっと、一緒にいたいんだ。」
「ああ、そうしなさい。」
「いいえ。」
私は即答した。
これ以上、健人を愛してしまったら…彼を失いそうで、怖かった。
それならいっそ…。
私は家を出て、パパとママと過ごしていた家に戻ってきた。
「…一人で住むのはやっぱり広いか。」
高1にして一軒家に一人暮らしなんて、リッチよね。
気持ちを別なところにしまい込み、日々の暮らしに目を向けることにした。
両親二人が協力して建てたこの家を守りたかった…二人が愛した証を娘として。
学校も退学か休学を考えたけど、健人パパが残り二年分の学費を払い込んでくれていた。
職員室に行き、私は健人の姿を探した。
あの大きな背中がこんなにも遠く感じるなんて、触れそうになる手をぐっとこらえ私は声をかけた。
「あの…廣瀬先生。」
「なんだ?ア…。」
「ひ、廣瀬先生。」
「イ?すまん…俺の為に家を出たのに。」
「自分の為ですから…少しいいですか?」
「あ?ああ…。」
健人と生徒指導室に行き、久しぶりに向かい合った。
「ちゃんと食べてるか?」
「はい。」
「…えっと、あ、学費の事か?」
「はい、すぐには無理ですけど…絶対にお返ししますから。」
「…フッ、返さなくていいと言っても断るんだろう?」
「はい。」
健人が動揺してるのをはじめてみた。
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