第4章[許されない関係]

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「先生?萩原先生?」 彼の背中に言葉を投げかけたけど、何も言わないまま彼は歩いていた。 ようやく、隣の棟へ行く渡り廊下に着いた。 「柏木?」 振り返った彼の表情は、初めて見せる表情だった。 「…はい。」 「大丈夫か?…うん、ごめん。大丈夫なんかじゃないよな。」 「萩原先生、先生がどこまでご存じなのか知りませんが…実は学費とか、けん…廣瀬先生のお父様から支援していただいているんです。」 「廣瀬?」 「ええ、亡くなった母と同級生でそれで…。」 「そうか…今?」 「通学時間少しかかるんですが、実家の家が遺産として残ってるので。」 朝の陽ざしがまぶしく、目を覆った。 「…向こう行くか?」 「いいえ。」 そっと触れられた腕に私の健人への思いが、爆発しそうになっていた。 彼と…健人といたい。 私は一歩下がり、萩原先生との距離をとった。 「先生のクラスじゃないのに心配してくださって、ありがとうございます。」 私はこれから一人で、生きていかなければならない。 学校生活、健人のパパから時間をもらったけど…それも返さなければならない。 「柏木?」 「はい?」 「…肩の力はいりすぎてるぞ、まあ。うん、頼りたくない気持ちも分からなくもない…でも、人って一人じゃ生きていけないんだ。俺もお前もな…。」 「フッ。」 「俺が言うとおかしいか?」 「いいえ、ありがとうございます。」 あ。 「ありがとうございます。」 笑顔…忘れてた、誰にも心配かけないように練習してたのに。 「柏木?お前…。」 「ちょっと考え事です、今晩何食べようかなとか…バイトもしなきゃいけないし。」 私、ちゃんと笑ってるでしょ? 先生なんでそんな、憐れんだ顔で私を見てるの? 「…柏木。」 「はい、もう…いいですか?先生もホームルームはじま…。」 腕をつかまれた。 「柏木?」 「放して…ください。先生のクラスじゃないのに…。」 「俺のクラスじゃなくても、ほっとけない。」 「そ、はあ…人が一人で頑張ろうとしてるのになんで?なんでそんな風に言うかな。」 ちょっとしたことですぐに涙があふれ出す、 何の解決もできないのに…。 泣いたところで… 何もない、何も変わらない。 「放して。」 「嫌だ…。」 「う、ん…もう。」 「ちゃんと…泣いてないんだろ?我慢することないだろ、辛いなら辛いって言え?」 「言ってどうなるの?私には…誰もいないのに。」 萩原先生は私を強引に抱きしめて、頭を撫でてくれた。 「俺もいるし、友達いるだろ?その…廣瀬先生のお父さんも力になってくれるはずだと思うけど?」 「……な、何も知らないくせに!」 私は萩原先生を突き飛ばし、彼から離れた。 力を振り絞って突き飛ばしたまでは、よかったんだけど… 脚がもつれて、空いていた窓から外に落ちそうになった。 「ひゃ…。」 体が完全に窓枠を超えてしまっていた。 「な、なにやってるんだよ!」 「健人?」 「はあ…。」 健人が私の右手をつかんでくれたのはいいんだけど、健人がつかんでいたのはカーテンでブチブチちぎれてる音が聞こえていた。 「心配するな。な、助けてやるから…おい!萩原!手貸せ早く。」 「…へ?ああ!」 カーテンが完全に外れた瞬間、 健人までも私と二階の渡り廊下の窓から、落ちちゃうと思った。 …彼は死なないでほしい。 そして… 私は、彼とともに生きたい。 そう思った。 …願いは、かなうだろうか?
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