第5章[眩しすぎる愛]

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「…なんで劇とか言ったんだよ。」 誰もいなくなった時、健人が萩原先生の胸ぐらをつかんでいた。 「決まってるだろ…柏木の為だって、だからお前も返事したんだろ?」 萩原先生はそう言い放つと、健人の手を振りほどいた。 「はあ…イテ、」 座っていた私を心配そうに見つめる健人を、私は見ることが出来なかった。 「柏木?ケガ本当にないか?病院行くか?」 萩原先生が、私の前にしゃがむと顔を覗き込んできた。 「いいえ。」 「じゃ、とりあえず保健室に行こう。」 座っていた私に萩原先生が、手を差し出してくれていた。 私はその手を…つかもうとしていた。 「行くぞ。」 健人はスッと立ち上がると、私を抱きかかえた。 「ヒャッ…ちょっと!おろして!」 「あいつの手がよかったか?」 「…もう、そういう問題じゃ。」 「いいから、この方が俺が安心なんだ。」 「はいはい、俺もいるし…運んでもらえ。」 「…。」 健人は萩原先生を見て、私を見ていた。 「アイ?こいつが好きなのか?」 「え?急に何?」 私が驚いていると、萩原先生は健人の顔を覗き込んでいた。 「お前いちいちうるさい、俺に変われ!」 「はあ?」 「もう!いい加減にして、健人…おろして歩くから。」 「嫌だ。」 健人は私を抱きしめた。 「ちょっと!」 「おい。柏木嫌がってるだろ…。」 「…嫌なのか?」 顔を覗き込んできたから、私は健人を見つめた。 「うん。おろしてって言ってるの。まだ続ける?」 健人はうつむきながら、私を下ろしてくれた。 「ごめん…。萩原先生もスミマセン。」 「…え?あ、まあ。」 「アイの事、頼んでもいいですか?」 「え?あ、まあ。」 「け、廣瀬先生?」 「…アイ、俺もうだめだ。だから…。」 「あ!待て!」 歩き出した健人を萩原先生は、引きとめると何か話していた。 私は一人保健室に向かった。 腰がやけに痛くて…手も真っ赤だった。 保健室に行くと、誰もいなくて…私は倒れこむようにベッドに横になった。 おでこに誰かが手を当ててくれる手のぬくもりを感じていたけど、私はそのまま眠っていた。 どれくらい眠っていただろうか、ゆっくり目を開けるとベッドに顔をうずめて健人が眠っていた。 「健人?」 「あ?うん!起きたか?」 「うん。」 保健室を見渡しても健人以外誰もいなかった。 「…ずっといてくれてたの?」 「ああ。」 「え?でも…ホームルームは?」 「行ったよ、」 ぐうぅ。 私は自分のおなかを押え、掛け布団を被った。 「アハハッ、おなかも減るだろう…今、5限目だどれだけねてたと思うんだよ。」 私は起き上がると、壁にかけてあった時計を見て健人の顔を見た。 「フッ、休み時間は原田がいて…俺が授業の時は萩原先生がここにいた。」 「そう。」 健人の表情が、少し変わっていた気がした。 萩原先生が、何か話してくれたんだと思った。 もう…一緒にはいられない。 そう、また言わなきゃいけない。
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