第5章[眩しすぎる愛]

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「ね?今日の事、誰が嘘なんて信じると思う?」 声が震えてるのが、自分でも分かった。 「…俺、外で飯食ってくるから。」 健人パパはそういうと、リビングから出て行った。 「そうだな。」 健人は軽く返事をすると私がつかんでいた包丁から、手を離させると包丁をしまった。 「そうだな?先生でいたいんでしょ?」 「まあ。」 私に優しく微笑むと、私の手をひき食卓の椅子に座らせた。 「まあ?」 私の目の前に座って、さっきから笑ってばかりの彼に怒りさえこみあげてきた。 「そんな軽い問題じゃないよ?わかってる?」 「うん。フッ…眉間にシワよってるぞ。」 私の顔をじっと見つめ、指で私の眉間をおしてまた笑顔を見せていた。 「健人…私、ふざけないで聞いてよ!」 「言ったろ、俺が考える。お前は自分のやりたい勉強に専念すればいい…な?」 「私のやりたい勉強?」 「そうだよ、だから…美術科があるあの高校に入学したんだろ?」 「…。」 忘れてた…。 周りの人たちが眩しすぎて…私自身が見えてなかった。 「スケッチブック…いつも持ち歩いていたのに、俺のせいだな。」 「健人のせいなんかじゃない…私が忘れていただけ。」 「忘れてた?」 「うん、健人の事ばかり考えて…た。」 「俺のせいじゃん。」 これまで以上に健人は、笑顔で私を見つめてそっと私の手をつかんだ。 「…俺はアイの傍にいる、だけど自分自身の時間も守る。わがままで贅沢な事を言ってるだろうけど、俺はそうしたい。」 「私は…健人の邪魔だけはしたくない。だから、私も自分自身の時間を大事にする。」 「…できるか?」 「ちょっと!突き放してたくせに、今べたついてるのはどっち?」 「フフッ、俺だな。我慢できなくなってな…原田や萩原に言われた。好きと認めて、すっきりしろってそれから自分の立場守るなり、アイの居場所を守れるって。」 「そう…。」 「ずいぶん前に、アイに…アイが大人になったらなって言ったけどアイは十分大人だな。」 「周りがそうさせたんだよ、パパやママのように人を愛せるのかって…思い知らされたんだもん。正直、怖い…このまま健人の事。失うんじゃないかって…。」 勝手に目の前が霧かかり、あふれ出す涙をぬぐった。 「バカだな、俺はここにいるって言ったろ?アイの傍に。」 「うん、でも…パパのようにちょっとしたことでも疑ったり、嫉妬して健人を困らすかもしれない。」 そう…私はパパの血をひいてる。 「今更なに言ってるんだよ、俺を困らせない日はなかったろ?それでいいんだよ、博史パパさんは博史パパさんで、アイはアイだろ?」 「健人…。」 「困らせてくれないと、一日が終わらない。」 「ちょっと!」 「フフッ。怒ったアイも可愛い。心配はいらない…俺はアイを置いてどこにも行ったりしない。」 そんなこと言われても、私は…隣を歩けない。 「健人…さん。」 「なんだ?なんか、怖いな…改まって。」 「やっぱりいっしょにはいられないよ…。」 「わかった、なら…学校やめる。」 「何言ってるの?先生になるって…。」 「大事な人さえ、困らせてるような奴が教師やってられないだろ?」 「…ごめん、なさい。私、健人の事…本当に大好き、だからこそ。怖いの…健人が先生だからって逃げてるように聞こえたならごめんなさい。」 「アイ?」 「はあ…。」 「アイ。」 健人がそっと伸ばした手を、私は拒んだ。 彼の胸に飛び込んで、声を上げて泣き叫ぶ事ができたらどんなにラクだろう…。 彼に甘えられれば、どんなにラクだろう…。 でも、私は一人で生きなきゃいけない。 高校を辞めて、働こうか? 私に何ができる? 私は何をどうしたいんだろう? 父も母も祖父母もいない、私は本当に一人だった。 ただ…目の前に愛する人がいるだけだった。
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