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霊安室の扉をくぐり、私はパパと健人ママの安らかな寝顔を見届けた。
「親父の書斎で見つけたんだ…アイのお母さんの事、ずっと好きだったらしいく写真が本に挟まっていたんだ。母さん、それ見つけて…だけど、ずっと親父に尽くしてた。」
「うん、知ってる…それに、いつも私の事気遣ってくださってた。」
健人の事好きだけど、隠してたのを健人ママは気が付いて私が健人の傍にいられるようにしてくれてた。
「教師になるのを迷ってた時期があって、だけど…おじさんが俺の背中押してくれたんだ。いろいろと相談のってくれてた…親父に言えない事たくさん聞いてもらってた。」
「どうして…こうなっちゃったんだろうね?」
「…二人とも愛しすぎたんだろうな。」
「そうだね。」
私達はそっと、つないでいた手を放した。
早々に葬儀が始まり、あっという間に終わって行った。
「二人…付き合ってなんかなかったんだろ?」
健人ママの位牌を目の前に、健人パパはただただうなずいていた。
「わからない。」
「…わからないことないだろ?」
「健人?」
「アイ…どうした?」
「…ごはん、まだだろと思って。」
私は健人ママから、稲荷すしの作り方を聞いていた。
「いなり?」
「うん。」
健人が好きなのよって…教えてもらったものだった。
稲荷を見た瞬間に健人パパは、大粒の涙をこぼしていた。
「…今更、遅いんだよ。」
健人は大きな声で叫んでいた。
「健人…。」
私は彼の手をそっと包み込んだ。
「誰も悪くない…でしょ?そうしなきゃ、ね?」
「…はあ、ああ。な?アイ…ちょっとだけ、そのいいか?」
「え?」
私の手を彼は握り返し、私は彼の腕の中に包み込まれていた。
「アイ…グッ…ふう、俺は泣いてないからな。」
「うん、」
私は彼に抱きしめらていて、彼の泣いている姿を目にすることはできなかった。
私は少しも涙が出なかった。
…ママのどことなく、嬉しそうな顔を一瞬でも見てしまったから。
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