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「大河、暇だ」
その言葉を合図に、大河はよほどのことがない限り、私の一人暮らしのアパートまでやってくる。
大河が来ると、ほのかに甘い香りが漂ってくる。
私は冷蔵庫にあるお茶をコップに入れて、それを大河に渡す。
そして、大河は「ありがと」とニコッと笑う。
ここまでがいつものテンプレ通りの流れだ。
一人暮らしのアパートに、女の子が男の子をあげるなんて事は、何か起こってしまっても、何も言えないことなんて分かってた。
それでも絶対的に、私と大河の間には、何も起こらないという確信が私にはあって。
実際、ほんのちょっと大河をからかってみたことがあったけれど、大河は照れるだけで、私に指一本触れなかった。
「茜、シンと連絡とってないの?」
突然の「シン」の事に、私は黙りこんだ。
シンは大河の親友だ。
大河とは違って、女の子が大好きな遊び人。
「最近はとってない」
出会った当初、私はシンとの方が仲が良かった。
だけど、シンの事は手に負えないと、いい感じになればなるほど思い知ったんだ。
「シンのこと、好きだったっしょ?」
「好きだったよ」
「まぁ、俺が女でもシンを好きになる」
シンは女心を掴むのが上手だった。
欲しい時に欲しい言葉をくれる。
寂しい時に気付くとそばに居てくれる。
「だけど私の手には負えないから」
「そう? 茜とお似合いだったけど」
そうだ、私とシンはいい感じだったはずだ。
それでも告白できなかったのは、シンは私のことを多少は思っていても、付き合いたくないというのが分かったからだ。
きっとシンは、彼女が欲しくないはずだ。
それが分かってしまって、そしたら同時に、周りにいる女の子は私だけではないのだと察しがついてしまった。
「だって・・・・・・シンは彼女欲しくないじゃんか」
「・・・・・・そうかもね。でも、彼女になるって大事なことなの?」
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