風たちぬ

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 暗い森の中で、何かが木々の間を飛び回っていた。  木々を飛び回るその“何か”が残す痕跡はわずかで、一目見ただけでは“その何か”が残す痕跡を見つけ出すことは不可能に近かった。尤も、他の者がこの痕跡を見つけ出すには、この場所は森の中に入りすぎていた。  木々の間を飛び回るその“何か”に目を凝らしてみれば、それが人であることがかろうじて判別できたことだろう。その人物は夜にも負けないほどの漆黒の装束に身を包み、人の肉体を凌駕する動きをもって木々の間をすり抜けていた。  その少し後方から今度は傍目にも分かり易い、純白の鎧に身を包み、人身獅子頭の彼の後頭部から首回りにかけてを覆っている金色の鬣を振り乱した体格の良い騎士が少し前を行く漆黒の人物を追いかけていた。 「そこだ!」  裂帛の気合とともに純白の騎士から放たれたハンドアックスは、狙いをはずすことなく漆黒の人物が次の足場として目標としていた枝を切り落とす。  急に目の前から目標となる足場がなくなったことで、次の足場を見出すことが出来なかったのか、その人物は樹上にとどまることが出来ずに地面に落下してしまった。
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