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第1章 気位ばかり高くて偏食家で
名前の響きなんかは、それなりにいいのではないかと思う。
何といっても名付け親が敬愛するメロネアの英雄エンレイなのだから、これに関しては文句のつけようがない。
ルフェス・トリリアム。
巨嘴鳥族から最凶の名を取り戻した若い赤褐色の竜は、灼熱華の加護があるせいか人型に変わっても見映えのいい容姿を保持出来ている。
鱗よりも明るい赤毛は勢いよく波打ち、整いすぎた顔を飾る花枠になる。
人が考えつく美形の要素のほとんどを取り入れたような姿かたちは仮のもの。
けれど、これもまた自分の本質だと語るルフェスの不遜な微笑を思い出して、パルは溜息をつく。
現在地は彼が一夜で築いた地下迷宮の深奥。
苛立ちに任せて人が住む村を焼き払うよりは随分平和的な解決策だが、ストレスが溜まる度にこうやって迷宮を作って引きこもる習性は何とかならないものなのだろうか。
破壊と魔力の放出は彼らドラゴンにとって自然な欲求。
おとなしく過ごしているだけでも自己制御が必要なのに、世のため人のため、守護竜として力を使い続ける労苦はどれほどのものなのだろう。
それを一番わかっているはずなのに、竜の馭者としてお役目を与えられたパルの気持ちの整理はついていない。
自分で作った迷宮に引きこもられていては困る、というのは人間側の勝手な都合。
そのために払う対価は、楽しげな舞や歌や捧げものの類であったはずなのに、うっかり見初められてから、長い間不在だった『馭者』のポジションにパルは任命されてしまったのである。
メロネアの英雄エンレイに憧れ、彼のような冒険者になるつもりでいた。
鍛錬も勉学も積極的に取り組み、エンレイが在籍する騎士団への推薦枠をもぎ取ったパルの人生は順風満帆なはずだった。
白銀の髪、薄紫の瞳。誰に対しても公正で穏やかで高潔なエンレイに少しでも近づきたくて過ごした七年間。平均的な魔力と体力しかなかったパルが高い評価を得られるようになったのはすべて努力のおかげだった。
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