第4章 不可視の花冠

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 交尾や性行為の隠語や婉曲表現はいくつでもあるのに、ベッドの上なら『これ』で伝わると思っているルフェスにパルは何度も頷いた。  自分は欲深い人間でないはずだったのに、唯一の人でありたいと願ってしまう。  恋物語や伝説の中では、時に踏みにじられる直向きさも現実では尊ばれるものであればいい。 「……マルキアス公爵夫人のサロンに、一時期通っていた……とも聞いたが?」  彼女とルフェスの結びつきは意外だった。  接点の多い相手との噂ならまだ聞き流せるが、男女問わずお気に入りを誘って気が向けば同時に数名と抱き合う奔放な彼女と関わりがあるというのは問題である。  実践してはいなくても、性の知識をルフェスに伝授したのは彼女かもしれない。  本能に突き動かされただけにしては、はじめて触れてきた時から優秀すぎた。  エンレイがその役を担うよりは健全なのだが、年上の女性に可愛がられながら性技を学ぶ彼を想像したくない。  サロンに招かれ交流があったことをルフェスは否定しないだろう。  それは彼に必要な時間であったのに、引っかかりをこの場で吐き出してしまった自分をパルは恥ずかしく思った。     
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