Rテレポーテーション・サービス

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 香山は引き出しからハンカチを取り出す、それにアルコールと睡眠薬を混ぜた液体を振りかける。それを持って、妻のところに行くと、薬を染み込ませたハンカチをソッと彼女に顔に被せた。何度か寝息でハンカチが上下したが、揮発性の高い薬はすぐに彼女に吸収され彼女をより、深い眠りにつかせた。 「どっこらせっと」  香山は妻を抱きかかえ装置のガラスケースまで運び出した。ガラスケースの蓋を開け、その中に妻を押し込むと蓋をして転送先のボタンを押す。  テレポーテーション装置は単純にモノを受信するだけでなく送信することもできた。以前、山奥に借りた山小屋。あそこにも、テレポーテーション装置が置かれていたのを最近、思い出した。元は家から荷物を転送する為に置いてある装置で、電源は入ったままであることも。  そして、今の時期、夏は快適な山小屋も冬の時期は寒い。そんなところに、寝間着姿の妻を送信すればどうなるか、簡単に予想はつく。前に事故で聞いたことがあった。酔っ払いが装置に入って内部から起動させたことで大騒ぎになったということを。あの時は、幸い何事もなく終わったが、今度は確実に死ぬだろう。そして、警察は酔った妻が誤って装置を起動させたことによる事故として処理するはず。  妻は装置に入り浸りだったが、機能を過信しすぎたと。 「あばよ」  香山はタブレットの転送ボタンを押すと、ガラスケースの中に放り込む。装置は自動的にガラスケースの蓋を閉じると、妻とタブレットごと転送した。  これで、あとは翌日になって香山は妻が行方不明になったと騒げばいい。これで、問題が解決した。香山はホッと胸を撫で下ろした。 「おまちください」  いつも香山が聞いている機械の自動音声とは違う、聞き慣れぬ第三者の声が割って入った。香山が顔を上げると、妻が消えたガラスケースに見知らぬ男が立っていた。
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