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「それはそうと、あんた見かけない顔ねぇ、旅行かしら?」
「いえ、移住です」
「また何でこんなとこに」
「新しい可能性を探して」
逃避ですというわけにはいかない気がした。
僕には悪い方のくじは確実に引き当てるという特技がある。
勤めた会社はことごとく黒かった。
朝行ったら倒産の貼り紙だけが出迎えてくれたことが二回。
経営者が、僕が見ている前で夜逃げしたことが一回。
給料を上司に着服されたことが一回。
働くことへの意欲や憧れは、とうに消え失せていた。
しかし、働かずに暮らせるわけではない。
せめて家賃が安く、食べ物がどうにかして手に入りそうな僻地ならばと考えた果ての選択だった。
冷静に考えてみると就職先を見つけるのが先だが、僕はどうやらとても疲れているのだろう。
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