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僕はまた引き当ててしまったのだ。
果ての見えない急な石段の前でそう思った。
シゲ子さんは、朝8時に出勤した僕に、にっこりと笑いかけた。
洗剤に調味料に飲料水に牛乳。
世の中の、ありとあらゆる絶望的に重いものが詰まっている、変な背負いカゴを差し出された。
背負ったら、肩の骨に食い込むほどだった。
三十キロは下らないだろう。
シゲ子さんは、僕に手書きの地図をくれた。
「配達お願い」
シゲ子さんの地図の無慈悲な指示は「石段、ノボレ」だ。
迂回路は無い。
途中で休めばもう僕は立ち上がれないだろう。
石段が終わったら急坂だ。
そしてまた石段、急坂といくつかの試練を越えた先にようやく目的地が見えた。
どうしたらこんな所に建てられるのかわからない、悪魔の絶壁ハウスである。
「……お゛はよう゛ございます、丸井商店です」
「ハイハイ、シゲ子さんがいってたのはあなたね。あらあら、滝に打たれたみたい」
悪魔城の住人は笑ったが、僕は、あまりの苦行に息も絶え絶えだった。
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