48人が本棚に入れています
本棚に追加
「ありがとうございます」
立ち去ろうとした僕のカゴを、住人は引っ張った。
ひっくり返らなかったのは幸いだった。
「ちょっと待って、私には無理よ。家の中まで運んでくれなきゃ」
それはここ、これはあっちと目まぐるしい。
「あ、ついでだからこのテレビこっちに移して」
「その乾燥機は物置にね」
そろそろついでの域を超えるのではないかと思いかけた頃、ようやく僕は解放された。
「シゲ子さん、まさかこれ、毎日じゃないですよね」
「ハイ、このメモが次の配達先ね。まさかまさか配達が一軒だけだとは思ってないよね」
「……」
「ここらは車が入れない家ばかりでね。住人も高齢化で身動きが取れない。あんたが来てくれて本当によかったわあ」
五軒の配達を終えたその晩、僕は蜘蛛の巣に引っかかったトンボになった夢を見た。
最初のコメントを投稿しよう!