買い物強者

9/12
前へ
/12ページ
次へ
丸井商店に戻った僕にシゲ子さんは特に何もいわず、すぐに次の配達先のメモを渡してきた。 遅くなったことを咎められなかったのは不思議ではある。 「あのう、何があったか聞かないんですか?」 シゲ子さんはあっさりしたものだった。 「この辺の配達をしてりゃ、予定通りに事が運ばないのはよく知ってるわ。ハイハイ、遅れた分さくさく働いてね」 例の絶壁悪魔城への配達だ。 もうすっかり慣れてしまった。 今日のついでは障子貼りだった。 「悪いねぇ、こんなことまで頼んじゃって」 「いえいえ、ついでですから」 もはやどちらがついでなのかはわからない。 「前はシゲ子さんがやってくれててね。さすがに年には勝てないって、若い子を雇ったのよ。けれども誰も続かなくってねぇ。あなた意外と頑張るわ」 「この荷物、シゲ子さんが担ぎ上げてたんですか?」 「そうそう、その前はあそこの旦那さんがね。私たちも若い頃は何とかなってたけど、みんなこんな風に年をとるなんてね。若い頃には思っちゃいなかったのよ」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加