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丸井商店に戻った僕にシゲ子さんは特に何もいわず、すぐに次の配達先のメモを渡してきた。
遅くなったことを咎められなかったのは不思議ではある。
「あのう、何があったか聞かないんですか?」
シゲ子さんはあっさりしたものだった。
「この辺の配達をしてりゃ、予定通りに事が運ばないのはよく知ってるわ。ハイハイ、遅れた分さくさく働いてね」
例の絶壁悪魔城への配達だ。
もうすっかり慣れてしまった。
今日のついでは障子貼りだった。
「悪いねぇ、こんなことまで頼んじゃって」
「いえいえ、ついでですから」
もはやどちらがついでなのかはわからない。
「前はシゲ子さんがやってくれててね。さすがに年には勝てないって、若い子を雇ったのよ。けれども誰も続かなくってねぇ。あなた意外と頑張るわ」
「この荷物、シゲ子さんが担ぎ上げてたんですか?」
「そうそう、その前はあそこの旦那さんがね。私たちも若い頃は何とかなってたけど、みんなこんな風に年をとるなんてね。若い頃には思っちゃいなかったのよ」
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