妄想痴漢列車

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 帰り道、俺達は近所の公園に寄った。  ガキの頃に遊んだそこは、街灯がつくような時間には誰もいない。  ブランコに腰を下ろして、お互いしばらく無言だった。 「あのさ…今日のは、その…」  なんて言い訳したらいいかわかんないけど、とりあえずこの空気だけはどうしようもない。  なんか言わないと圧死する様な重い感じが嫌で口を開いた。 「なぁ、亮二」 「へ?」  突然名前を呼ばれて、俺はちょっと焦った。  だってコイツ、高校入って突然俺の事『亮二』じゃなくて『正木』って苗字で呼ぶようになった。  なんかあれ、すっごく距離置かれた気がして嫌だったんだよな。 「亮二は、その…男に興味あるのか?」 「え……とぉ…」  何が答えだよ、これ。  なんにしても俺、詰みだろ。  『ある』って答えれば間違いなく性癖バレる。気持ち悪いとか思われる。  でも『ない』って言っても信憑性ないだろ。だって、明らかに男だったよ、あの痴漢。  しかもトイレで俺、小声だったけで和樹の名前呟いてたよ。 「あの、それは……」 「正直でいいよ」 「………はい」  隠せないのに嘘つくのも嫌で、俺は認めた。  そしたらなんか…諦めついた。  コイツとの友情とか終わると思うけれど、どっちにしてもな気がした。  それに、俺ならここまで確定してるのに嘘つかれんの嫌だ。  和樹はなんか、色々考えてるっぽい感じで黙ってた。  すんごい悩んでて、黙ってる。  動けないまま黙って見てると、そのうちに顔が上がった。 「明日さ、暇?」 「え? あぁ、うん」 「見たい映画あるんだ。行かないか?」 「えぇ?」  あの、この状況で一体どうしてそんなお誘いかかるんですか?  でも、真っ直ぐに見る和樹を見てて、俺は心臓ドキドキだ。  なんか、期待してる。ってか、ほっともしてる。  とりあえず拒まれてない。それが、俺にとって何よりの救い。 「いい、よ」  言ったら、和樹はとても真剣に頷いた。
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