夏休みの終わりの日

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柵を乗り越えた僕は慎重に足を踏み替えて、踊り場を背にするように体の向きを変えた。 柵の手摺に腕を絡めた僕は、十字架にかかったキリストみたいな格好になった。 下を見ると誰もいない。チャンスだ。 最期によく晴れた空を見ようと顔をあげたら、視線を感じた。 え!? 僕のマンションの向かい合ったマンションのベランダにオジサンがいた。 え!? オジサンはグチャグチャの髪でボーボーのヒゲ、ノビノビのティーシャツに短パンだった。 こんなオジサン近所にいたかな? よく見るとオジサンはハダシで僕と同じような姿勢で柵の外に立っていた。 オジサンも飛び降りようとしてんの?同じタイミングにすんなよ!! しばらくオジサンと僕は見つめあっていた。 オジサンがはやくあきらめて部屋に戻ってくれないと僕が飛べないんですけど!! オジサンも何か僕に言いたいみたいで口をパクパク動かしている。 オジサンを僕がにらみつけていると、オジサンは急に真顔になり、地面を見つめ、ゆっくり片方の足を柵の根元から離した。 僕より先に飛び降りんじゃねぇよ?? 思わず右手をオッサンの方に伸ばした。とどくわけないのに。 そのせいでバランスが崩れて右足も柵から離れてしまった。 しまった!! 必死で左手に力を込め、僕は左足を軸に半回転して右手右足で柵をつかむに成功した。 首をまわしてオッサンを見ると、オッサンは心配そうな顔で僕を見ていた。そして1度頷くと体の向きをなおして柵を乗り越えて、ベランダに戻ってまた僕をみつめた。 僕も柵を乗り越えて、踊り場に戻った。 お互いにみつめ合って1度頷きあって、オッサンは部屋へ、僕は家にもどった。 死ぬのは当分先のことにしようと思った。 おわり。
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