プロローグ・森先生の提案

2/7
前へ
/119ページ
次へ
 2017年、4月。  始業式終わりのホームルームで、今日から2年5組の担任になった新任教師・森大和(もりやまと)は、教卓の上から、これから一年間受け持つ生徒たちの顔を、見渡していた。  文系クラス、森の担当は現代文だった。2年5組に生徒は全員で30名。男子14名、女子16名である。森の教師としてのモットーは、生徒一人ひとりの個性を大事にすること、生徒を子供扱いしないこと。そして、教え子が大人になった時に、高校生活を振り返って懐かしむような、輝かしく楽しい思い出を残すことだった。  情報過多な今の世代、人同士の繋がりがいかに、人生において大切だということを解くのは困難だと、森は思っていた。森自身は30代半ばで、教師としてのキャリアは10年弱だった。教師として貫禄が出る年齢でもないし、ルックスで人気を得られるようなタイプでもない。森が選んだ道は、生徒と話すことだった。生徒たちの父親というにも、兄というにも微妙な年齢だ。親戚の叔父さんのような立ち位置だろうか、森は気さくに生徒たちに話掛ける。明るい性格も相まって、前任の高校では、割と人気のある教師だったと自負していた。あくまでも自分調べなのだが。
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加