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お祀り
「今年も祭りの季節がやってきよったな」
「気が滅入るな」
「おい、滅多なこと言うもんでねぇ! 何が起こっがわからんちゃい」
「ばってん、あげなに明るい子やろ? なんやかわいそうになっちまうやけん」
「だから、そげなこと言うなっちゃ! 誰に聞かれとうとわからんけん」
S子は水桶を落としそうになるのを必死で堪えていた。体は震え、目からは涙が溢れそうだった。
しばらくして、二人のが百姓がどこかへ行ったあと、S子は水桶を思い切り地面へと投げ捨て、がむしゃらに走った。割れた破片が親指を突き刺すも、痛みに声を上げる時間すら惜しんで走り抜けた。
一刻ほどたち、S子は立ち止まった。遠くで村人の叫び声や怒鳴り声が微かに聞こえる。
地面を手で触り安全を確認すると、地べたに座り込んだS子は口を両手できつく塞いで音が漏れないようにして泣いた。泣いて、泣いて、泣いて、涙が枯れ果てるのではないかと思うくらい泣いた。
「いたぞ! あそこだ!」
「もう逃げられんぞ!」
突然後ろから現れた声に驚きながらも立ち上がり、S子は前へと足を踏み出した。
「!!!」
強風が真下からS子を襲った。支えるもののない足が体が傾き、なすすべもなくS子は奈落の底へ落ちていく。
誰もいなくなった崖には不気味な笑い声だけが木霊した。
「恨むんなら、おれやなくて地主さまば恨んでけろ」
「だから、そげなこと言うもんやねぇって。お前んとこにも目無し子の産まれっぞ」
薄れゆく意識のなか、二人の百姓の会話だけが微かにしかし確かに聞こえていた。許さん、許さん、許さん、許さん……。
……戸が叩かれる。祭りの準備で家の者は誰もいない。戸を開けると、その主は快活な声でS子と名乗った。
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