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「まぁ、上がって!」
「うん。おじゃまします。」
そう伊吹くんに促されるまま上がると、1番最初に目についたのは昨日干した洗濯物。
もう十分乾いているであろうに、ベランダでそよそよと風に吹かれていた。
「ねぇ、洗濯物、もう乾いてるんじゃ・・・」
「ん?あぁ!時間なくてねー!」
そう言い笑顔を向けてくる伊吹くん。
何かを期待しているようなその表情に、私は小さくため息を吐くとベランダへと足を向けた。
「ごめんねー!家に居る時はなるべくやるようにしてるんだけどー・・」
そう言う割には昨日見た洗濯物は結構山積みだったけど。
なんて事も言えずに、私はサクサクと洗濯物を取り込んだ。
そうだ、あれだけ言っておかないと。
「あの、洗濯物の事なんだけど、」
「うん?」
「女の子に見せられないような物だけは自分たちでやってね。」
「へっ?」
そう言った私を、何故か恥ずかしそうな表情で見つめる伊吹くん。
「それって・・どういう・・・」
「何か勘違いしてる?・・下着だけは、自分たちでやってくれる?って事だよ。」
わざわざ伏せて言ったのに意味無いじゃん・・
「あぁ!なるほど!OKOK!大丈夫だよ!」
年頃の女の子が年頃の男の子の洗濯物するってだけでもかなり気を使うんだから、それくらい悟ってほしい。
再びため息を吐くと、私は取り込んだ洗濯を手際よく畳んだ。
「それにしても涼風ちゃんって、手際良いよねー!家事とか得意なの?」
「うち母子家庭なんで、必然と。まだ妹も小さかったりするのもあってね。」
「そうなんだ。でも、今からこんなに上手に家事こなせるならいつでもお嫁にいけるねっ!」
満面の笑みでそう言う伊吹くんに何故か私は顔が熱くなった。
伊吹はやめとけ。人のもんなんて傷付くだけだぞ。
「だから!そういうんじゃないから!!」
ふと頭の中で伊織ちゃんの言葉が再生されて、慌てて掻き消した。
「へっ?」
突然大きな声で言う私に、伊吹くんは驚いたように振り返った。
「あ、ごめん!なんでもない!」
いちいち出てくるあの悪魔に頭の中で野次を飛ばしながら私は手を動かした。
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