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「いやーすっかり片付けてもらっちゃってごめんね。」 「これが契約だからね。」 もうすっかり諦めた私はそう言う。 「でもほんとに助かるよ。ありがとう。」 ほんとに伊吹くんは危ない。 優しい声のトーンと口調。 更にはそのとびきりの笑顔でなんでも許せてしまうような気にさせる。 あの悪魔とは大違い。 「でも、カヨさんに頼まないの?将来のお嫁さんなんでしょ?」 ふと素朴な疑問を投げかける。 すると伊吹くんはあまり見ない少し寂しげな表情でこう言った。 「うん。カヨは忙しいから。必要以上にお願い事をしないんだよ。」 「そうなんだ・・・」 確かにそれもそうか。 いずれと嫁ぐ先の会社で仕事を覚えてるところだもんね。 きっとすごく大変なんだろう。 その時私は漠然とそんな事を思った。 「さて!じゃあ本題なんだけど、そろそろいいかな?」 伊吹くんは両手をパンッと叩くと、そう切り出した。 「うん。聞くよ。」 「実はね、とうとう正式にデビューが決まったんだよ!」 「えっ?ほんとう?!すごいね!」 「ありがとう!」 そう言った伊吹くんは本当に嬉しそうな顔をしていた。 「今年の夏ごろになると思うんだけど、準備にバタバタしそうでね。いくつか新しい曲を作らなくちゃなんだけど、そこで涼風ちゃんに意見を聞きたいんだ。」 「え?曲作りのことで私に?」 「うん!1つは王道に女の子の恋心を歌った曲をって依頼があってね。ほら、相手方は伊織を女の子だと思ってるから、それくらい書けるだろうって言うんだよ。」 なるほど・・・ でもあの伊織ちゃんにそんなの・・・ 「書けないだろうね。」 「そうなんだよね。そもそも、男と女じゃ恋愛に対する価値観も違うだろうしね。こんな事お願い出来るの、涼風ちゃんしかいないからさ!お願いっ!協力してくれる・・?」 そう言い両手を合わせる伊吹くん。 そんな風にお願いされたら断れないじゃない。 「でも、伊織ちゃんには?了承済みなの?」 あの伊織ちゃんの事だ。 自分たちの曲作りに私が手を出すなんて、許すハズがない。 「伊織の事は大丈夫!俺がなんとかするから!」 なんとかするって・・・・ 今日あった出来事を知らないからそんな事言えるんだよ・・ でもここまでお願いされたら首を横に振れなくて、私は溜め息混じりに小さく頷いた。
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