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曲が終わり、次の曲が始まるまでの空白。
無音。
そう思っていたのに、イヤホンじゃないところから突然声が聞こえた。
「……大好き」
え!?
声の方を勢いよく振り向く。
瞠目した女子が一人、そこに立っていた。
「……!」
彼女が何かを叫ぶと同時に次の曲が始まる。
彼女の言葉を知りたくて、イヤホンを慌てて取った。
「え?」
呆けた顔の俺を一人教室に残して彼女が飛び出していった。
追いかけっこなら負けない。
何てったって盗塁でMVP取ったほどだ。
屋上に向かう階段の踊り場で、漸く捕まえた。
「はあはあはあ、あんた……足、早いな……」
「はあはあ……何で……聞こえてんのよ……何のための……イヤホンよっ……」
吐き捨てるように言う彼女。
お互い全速力だったから、呼吸を整えつつの会話。
「いや、曲が丁度……終わったから……」
「……ばっかじゃないの……。タイミング悪っ」
「はあ!?俺??」
顎に流れた汗を拭いながら彼女を見る。
「そうよ。何で……そのタイミングで曲終わっちゃって……ばかみたい。……とにかく……今のは、忘れて良いから……」
そう言ってあっさりその場から立ち去ろうとする彼女。
俺は慌てて叫んだ。
「ちょっ、良いのかよホントにっ。今なら俺、絶賛彼女募集中だぞっ」
勢いよく彼女が振り向く。
その目は怒っていた。
「……ばかっ。そんな事……相手が誰かも知らないで、簡単に言うな!」
おいおい、告白してきたのはあんただよな……。
ポリポリと頭を掻きながら、一人置いてかれた俺は心の中で突っ込んだ。
「別に誰彼構わず言ったわけじゃないんだけどな……。あんただから、言ったんだよ……」
ぼそりとつぶやく。
別に告白するほど知ってる訳じゃない。
だけど、彼女もまた、最後の夏を努力していたのは知っている。
トランペット担当。
地区予選ではいつもソロを吹いてくれていた。
何で知ってるかって?
いつもグラウンドの横でその曲練習していたから、お陰でこっちまでメロディーを覚えたくらいだ。
夏の炎天下でも、誰に向けてなのかずっと吹いていた彼女は……同志だと勝手に心で思っていた。
吹奏楽部の大会ってもう終わったのか?
はあ。
一つ息を吐く。
『大好き……』
あの言葉が彼女の本心なら……。
何だ……始まったじゃん。
俺の恋が。
了
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