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青年 「あの、スーパーの前の交差点、な」
友人「何かあったのか?」
青年 「いや、暑いだろ? 今年の夏はイカレてるからな。
まったくもってイカレてるもんな。
日が暮れてから家を出て。スーパーで夕食を買おうと思って歩いていって。それで交差点で信号待ちしていたんだよ。そうしたら」
友人 「そうしたら?」
青年 「歩道の、な。後ろの方から、くぐもった声が響くんだよ。ええと。
『ゴラァ! そこ退け。ガキが!』
とか何とか」
友人 「ヤクザか?」
青年 「いや、年寄りだったな。
振り返って見たら。自転車に乗ってーー薄暗い歩道を、こっちに突っ込んでくるんだ。凄い勢いでな。驚いたよ」
友人 「そりゃあ、驚くだろ。最近、多いそうだからな。年寄りの不良化。
すぐキレるし、駅なんかじゃ暴力沙汰も日常茶飯事だ。
このあいだもTVで特集していたよ。抑制が効かない高齢者が増えているって。連中、マナーも何もないからなあ。
で、どうしたんだ?」
青年 「ああ、何とか避けて、見送ったよ」
友人 「文句を言い返さなかったのか」
青年 「ああ」
友人 「へえ。人間、できてるじゃあないか。以前は、繁華街でチンピラ相手にケンカなんかしょっちゅうだったろうに。敬老精神ってヤツかい。相手がどんなヤツでもさ」
青年 「いや、人間は関係ないな。うん。敬老精神とかも」
友人 「どういう意味だ?」
青年 「突っ込んできた自転車、な。地面から10cm以上、浮いていたんだ」
友人「は? 何だって?」
青年「車体も、ぐちゃぐちゃだったし。乗ってるヤツときたら・・・首が、な。
へし折れて。
胸のあたりまで皮がのびて。垂れさがっていたよ。
ああ、あれじゃあなあ。声がくぐもるのも、無理ないよなあ。
いや、驚いたぜ。避けた直後に、
チッ!
と、いかにも残念そうに舌打ちをしてーーいなくなるしな」
友人 「・・・何、言ってるんだ?」
青年 「何って、さっき言ったろ。人間は関係ないって。そのままの意味だよ。
アレじゃあ、もう、人間なんて言われないからな。
相手にはできないし、できるはずもない。そうだろう?」
友人 「・・・・・・」
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