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堅ッ苦しい制服のネクタイを緩め、ジョウは大きく息をついた。
その日は薄曇りで、この季節にしては過ごしやすかった。
さらに日陰は心地よい涼しさで、そよと流れる風はジョウの体を気持ちよく通りすぎて行った。
「ひと眠りすっか」
そして糸杉の木陰でうとうとしかけていたが、首筋に何かもぞもぞと動くものによって眠りは妨げられた。
「ん?」
首に手をやってみると、一匹のクモが手のひらに入ってきた。
握りつぶすことは簡単だったが、やたら生き物を殺すと幼馴染のレナが怒る。そこでジョウは、そのクモをそっと草むらに放った。
「おや。クモを殺さずに逃がしたね。ジョウ」
「まあな」
物音も立てず、同じクラスのトーマが側に立っていた。
ジョウは驚きもせずトーマの顔を見た。トーマの神出鬼没はいつものことだからだ。いちいち驚いてはいられない。
「よい心がけだ。褒美に三つの願いをかなえてやろう。何がいいかね」
「何か話が混ざってないか? クモを逃がしたら、地獄に落ちた時に天から糸を垂らしてくれるんじゃなかったか」
「そうだったかな?」
「まぁいいや。渡りに船だ。ひとつでいいから願いをかなえてくれねえか?」
「ひとつでよいのか。無欲なことだ。何かね」
ジョウは、トーマの方に身を乗り出した。
「俺の今かかえてる課題を、ちょいと手伝ってほしいんだよ」
「ふむ。どの程度手伝えばよいのかな。松・竹・梅とコースは分かれておるのだが」
「特上の松で頼むわ」
「特上とはこれはまた。強欲なことだ。いいだろう」
「商談成立だ」
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