3章

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「何も…………無い…………?」 自動ドアの向こう側にあったのは唯ひたすらな闇。一瞬、周囲一帯が停電したなら店の周りに明かりがなくともおかしなことではないと自分を納得させようとしたが直ぐに気づく。不自然なまでに暗いのだ。唯の停電であるなら、ある程度離れた道でも車が通りでもすればほんの少しぐらいはライトの光が届くかもしれない。それになにより、さっきまで同じ位置から見えていた筈の月が、無い。 心臓が早鐘を打ち、全身からはじわりと気持ちの悪い汗が吹き出し制服が肌に纏わりつく。呼吸の間隔が短くなり、指先が震える。 「なんだこなんだこれなんだこれ!! ふざけんなよ唯のコンビニのバイトでなんでこんな――――、一度店出るか…………? いや外の状況が全く見えねえ、考えなしに出るのはやばい、か。いやで、でも――――」 逡巡の後。一度大きく息を吸い、そして吐いた松野がゆっくりと入り口の自動ドアへ向かう。 緩慢な動作で初めの一歩を小さく踏み出す。ぎちり、ぎちり、とカタツムリにも劣る速度で一歩づつ、だが確実に自動ドアとの距離を縮めていく。 そしてドアの手前、本来ならセンサーが反応してガラス製のドアが左右に開かれる筈の距離までたどり着いた。恐る恐る腕を伸ばしセンサーの下で振ってみる。 「まあ、開かねえよな…………」 ここまでは予想通りと、とりわけ気落ちした様子もなくさらに距離を詰める。 そこからさらに二、三歩進んだところでようやく直接ドアに触れられる所までたどり着いた。 閉まっている、とは言っても全くの隙間無く密閉されている訳でもない自動ドア。その僅かな隙間に両手の指を差し込んだ所で動きを止める。 「もし、これで開かなかったら…………。考えたくもねえ、マジの怪奇現象って可能性が出てきちまうんだけど」 大きく深呼吸をし、指先に全身の力を注ぎ込もうとしたその時。
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