3章

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ばちばちと目の前で火花が散る様な感覚。緊張のあまり酸素が足りていないのか胸がぎりぎりと締め付けられ息苦しくなり始める。 そんな極限状態の最中、彼の脳内に浮かんだとりとめもない一つの疑問。 (昔から、理解できなかったんだよ。ホラー映画で背後に化け物がいると分かっててそれでも振り向く馬鹿な登場人物の考えが――――。あいつらが振り向いちまう理由が分かった気がする。分からないから、怖い。だから見ておきたい、一体背後にどんな恐ろしい怪物がいるのかを、怖いからこそ知っておきたい、その結果どんな事が起ころうとも…………な) 背後の気配は動く様子を見せない。 ぎちぎち、と。油をさしていない人形の様な動きでゆっくりと首を回す。 (これ以上は駄目だまだ引き返せるここで止めれば――――) 頭では理解している。今、ここで振り返ってしまえばきっと戻れなくなる。予感、というよりも確信めいた何かを彼は感じ取っていた。 (な――――めんじゃねえぞ! 俺を誰だと思ってやがる、地元じゃゴールドデビルと恐れられた松野――――) 振るえる足に力を送り、精神の限界を意思の力で超え、背後に迫る正体不明の姿を正面から直視する。     
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