3章

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女の、子…………? いや関係ないか、この状況で出てくる奴がまともなわけがねえ) 「――――おいテメエ!! どっから現れた? 停電も、ドアが開かねえのもお前のせいか!?」 そこらのチンピラ程度なら一瞬で黙らせられるドスの聞いた威圧。が、恐怖で声が裏返っていたことは本人は気づいていない。 「…………、…………」 頭上から降りかかる松野の声に少女の肩がピクリと動く。 「…………、…………」 ゆっくりと。本当に、ゆっくりとした動きで少女が俯いていた顔を上げた。 「――――――――、は?」 そこには、何も無かった。 あるべき筈の目も、耳も、鼻も、口も、人の顔を作り上げる上で必要不可欠であるそれらの一切が存在しない、ただのっぺりとした不自然な程に滑らかな肌があるだけだった。 違和感を覚えたのは一瞬。恐怖を感じたのはそこからさらに数秒後の事だった。 「…………か、顔…………が!?」 少女、と呼ぶのが正しいかどうかも分からない存在はピクリとも動かず松野の顔を下から覗き込むように見つめている。もっとも、眼球も眼孔も無い彼女にもその表現が当てはまるのかは不明だが。 じわり、と。バケツの水に絵の具を垂らすように、松野の中に恐怖心がじくりと広がっていく。 (落ち着け、落ち着け! これが普通の出来事じゃないのはもう理解した? 問題はこいつに敵意があるかどうかだけど――――)
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