3章

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耳を澄ましていなければ聞き取れないであろう小さな物音に、自らの意思とは関係無く松野の肩がびくりと跳ねた。その場に立ち尽くし、顔を引きつらせながら眼球だけ動かして辺りを確認する。この時間帯の従業員は彼一人で、客の姿など出勤してから一度も見ていない。当然、物音を立てるような存在はここにはいない。それが分かっているからこそ彼の脳内に種々雑多な考えが飛び交い始める。 「いやいや、いやいやいや無いないないってある訳ないってそんな事…………、そんな事ってのは別にお化けだなんだってモン想像した訳じゃねえけど? 今、二一世紀よ? 科学技術万歳の時代にそんな非科学的な存在を信じる奴なんているわけがねえって」 無意識に、雑誌を持つ手に力が入る。握りしめた拍子に表紙に写るキャラクターの顔がくしゃくしゃに歪む。図らずも今の松野と同じような表情だ。 「と、とりあえず客が来ないって事はよく分かった。なら今の内に掃除でもやっちまうか、深夜シフトの業務に店舗の清掃があった筈だし…………、そしてこれは後で店長か誰かに謝ろう」 よれよれになった雑誌は棚に戻さずカウンター内側、客の側からは目に付かない足元に置き掃除道具を取り出すためバックヤードの扉に手をかけたその瞬間。 バヂンッ!! と、何かが焼き切れたような音が松野の耳に届いた時には既に。 周囲一面闇一色。黒いインクで全てを塗り潰した様な暗黒の世界が広がっていた。 「ば!? な――――なん、―――――何、がッ!?」     
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