聖美と真知代

1/4
前へ
/65ページ
次へ

聖美と真知代

 私は人を殺した――  暗闇の中、横たわる男の身体を月明かりと、街灯の明かりが、薄っすらと照らし出す。  その死体を呆然と佇み見下ろす私。  ――良かった、良かったんだ。これで......  自分自身に言い聞かすと、死体はつま先からスーッと半透目になりながら、やがて完全に消えた。 辰巳龍矢(たつみりゅうや)の存在を消去――  夏の終わりにはまだ早いこの時期に、冷たい風が頬を撫でる。  カツンッ、とハイヒールの音が響いた――  次の日の朝、いつも通り登校してきた聖美を教室に入る前に引き止めた。 「聖美(きよみ)、辰巳龍矢って男の事なんだけど......」 「え? 誰、それ?」  ――やはり昨日の夜で、聖美の彼氏であるあの女好き最低男の存在は消えていた。  人を一人消した、文字通り消去した罪悪感と、聖美の記憶からあの男がいなくなってくれた安心感が、入り混ざる複雑な心境の中、私は胸をなでおろした。  白石聖美(しらいしきよみ)、私と同じ間地久高校(まじっくこうこう)に通う十七歳、  幼い頃から容姿端麗、大きな目に長いまつ毛、綺麗に通った鼻筋に潤った唇。  少し明るめの艶やかな髪は、制服を着崩した華奢な聖美によく似合う。  まぁ、そんな彼女をクラスの男子ならず、バイト先の男も放ってはおかなかった。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加