123人が本棚に入れています
本棚に追加
矢島忠雄は京セラドーム1階の会場で、恋人の実花と離れた座席に座っていた。
実花は熱烈なアダルトBOYのファンで、どうしても今回のコンサートに行きたいと言い、仕事の都合で一緒に行けるかどうかわからなかった忠雄を待てずに、一人で先に抽選に申し込んでしまった。後から申し込んだ忠雄も抽選で当たったものの、当然隣り合わせの席にはなれない。ただ、偶然にも前列の3つ右側に実花が見える。
実花は時々振り返って忠雄に手を振ってくる。あどけなく笑う実花がとても愛おしい。
付き合って6年。将来は間違いなく結婚するつもりだったが、仕事の状況など考えていたら1年また1年と遅くなってしまった。結局仕事は忙しいままで状況は何も変わっていない。もうそろそろ区切りをつけるべきだろう。
2ヶ月前から渡すつもりでデートの度に持ち歩いているポケットの指輪は、今日こそコンサートの後、万博公園で渡すつもりだ。
照明が消えてKPMが歌い始めると、忠雄の胸の鼓動も次第に高まっていった。
最初のコメントを投稿しよう!