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「彼女、この間の新作も試してるよ。良い感じに乱れてくれてね。甘さもちょうど良かったらしい」
「ひょぉぉおおお」
「余計なこと言わないでください!君もちょっと落ち着いて!」
さっきまで抱えていた恐怖はどこへやら、日和くんは青白かった顔を桃色に染め、死んだ魚の目からはしゃぎたい盛りの子犬のようにキラキラした瞳へと変貌し、無いはずの尻尾を振りまくって近づいてくる。
「はっはあはあ、初めましてAGB48の滋田日和(21)です!グッズの事なら何でも俺に聞いてください!」
「え、ええ、よろしくお願いします・・・お若いのにすごいですね」
「高校卒業と同時にこの店入りました!最初は好奇心でしたが楽しくって勉強しすぎて今店長補佐やってます!!過去一番の出世スピードって評価が自慢です!!」
それはさぞかし、ご両親も泣いてるんじゃないかなあ。
「さ、さすがですね。あの、十分聞こえますからもう少し声を抑えて頂いて・・・」
余計な心配をしながら、大きな声で身の上を教えてくれる日和くんを諫める。
何度も言うけど、すぐ手前の通りには老舗の店を守る人々がいるんだって。
有能な若者がいるらしい、って様子見に来ちゃったらどうするのよ。
「日和、この先は店の中でにしよう。彼女にいろいろ教えてあげないと」
「はいっかしこまりましたぁあ!!」
これっぽっちもレクチャーしてほしくないけど、これ以上このテンションではしゃがれて本当に人が集まって来たら困る。
またしれっと人の弱点を突く東雲さんに向け内心舌打ちをしながらも、仕方なくついて行くことにする。
すると促された日和くんは、羽が生えて飛んで行ってしまいそうな勢いで先頭を切り始めた。
うーん、さっきは同士だと思ったけど、日和くん自体も独特の個性を持った人みたい。
最初の反応からして被害者であることは間違いなくても、私ほどの悲壮感は抱いてないだろう。切り替え早いし。
「行くよ、小見さん」
無事に帰れるかなあ、私も、東雲さんも。
そんな不安を感じまくりながら、数メートル遅れで二人の後について行った。
ま、いざとなったら日和くんに『正当防衛だった』って証言してもらえばいいか。
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