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全く参ってはいなそうな笑みでくねくねと身を捩る日和くん。
これくらい個性がないと店長補佐も、ましてやアンダーハートとも関われまい・・・しみじみ思ったその時、日和くんが急に身体を引きつらせた。
「ギャーッ」
本日二回目の叫び声をあげる彼の後ろで、東雲さんが小型のリモコンみたいなものを手に佇んでいる。
そこから伸びる細いコードが日和くんの背中に貼り付けられたパッドに繋がっていることに気づき、やっぱりこの子も悪の手のひらで転がされてるんだなと実感した。
「ふうん、ほんとに電流流れるんだね。身を以て教えてくれてありがとう店員さん」
なんて厄介な客なんだ。
コイツはおそらく、お客様は神様と抜かして無理難題を言い付けるクレーマーに違いない。
しれっとした顔でスイッチを最大側へずらす東雲さんと顔面蒼白で白目になる日和くんのコントラストからそっと目を反らすと、壁際の棚に括りつけられた『背徳の宴』というボードが飛び込んだ。
並んでいるのは蝋燭や手錠、鞭など説明せずともピンとくる品々。
この凶器はあそこから持って来たんだろうな、商品の間に妙な空白あるし。
「西奴さん連れて来たら喜びそうですね」
「あ、女王様作家のですか?それならもう特別会員様っすよ。新商品は一通り買って下さるんで有り難いんすけど、基本宅配だから梱包が大変なんすよねえ。三角木馬とか一日がかりで」
さすがとしか言いようがないな、西奴さん。
そして最大パワーの電流を当てられて、もう復活してる日和くんも。
「小雪さんも、もしよければ会員だけでもなっていきません?入会金300円頂ければあとは年会費無料、いつでも全品10%オフっすよ」
「え、うーん」
300円を溝に捨てると確信できるくらい、必要ないけど。
でも、取材させてもらってるんだしビジネスでというのはアリかな。
コラムにて会員特典とか紹介すればお客様が増えるかもしれないし、そしたらお店にとっても良い傾向だよね。
なんならセール情報や新商品の紹介も兼ねれば、それだけでコラムのネタになるし一石二鳥かも・・・
「じゃあ入ろうかな」
「かしこまりましたああ」
あくまで法人目的だからね、と無言の訴えを背中で発しながら申込書に記入すると、日和くんがポケットから何かを取り出した。
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