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「入会ありがとうキャンペーンっす!今話題のローションサンプル、どーぞっ」
「あはは・・それは良いよ」
「せっかくだし使ってみてください!いつもと感触が違って彼氏さんもギンギンですよ!」
「今彼氏いないし。ローションは化粧品だけでじゅうぶ・・・」
肌はしっとりピチピチにしたいものであって、ねっとりギンギンにならなくても良いんだよ。
可愛い顔して商売魂を出してくる日和くんから一歩下がったその時、とんっと背中に何かが当たる。
軽いはずのその感触が、私には破滅の衝撃に感じられた。
「せっかくだし、使ってみなよ。小見さん」
かつてここまで首を動かしたくないと思ったことがあっただろうか。
数ミリでも反応したら、振り返ったら、視界に入れたら私の負けだ。
大丈夫、何も聞こえなかった。
戯言はただの店内BGMだと思うことにして、傍にあった棚をつかみ足に力を入れて必死に耐える。
「小見さん、是非っ!」
しかし目の前にも敵がいる、しかも無邪気な子犬の顔をして。
良いものをただ勧めたいという店員の性であり、背後の変態よりもある意味厄介だ。
「キャンペーンでこんな良いものが貰えるって記事に書けば、反響あると思うよ」
「それはその通りですけど、こういうのって独り身じゃ使い道がないじゃないですか。相手がいない・・と・・」
ああ、未だに巡り合えないヒットマン様。
迂闊で軽率でKYな発言をした、今の私を葬ってください。
「日和」
「はい?」
「ちょっと事務所貸して。より良い記事を届けるために、小見さんも身体張ってくれるって」
本当に良いものを広めるにはまず自分が味わうこと。
記事の真意を伝えるにはライターの私が身体を張ること。
つまりこれはビジネス。
会員申し込みもサンプルも全てはアンダーハートのために必要なのだ。
いつでも全品10%オフ。
会員となった暁に、まずあの電流パッドを経費で買い占めてやる。
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