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怪しい店でも一歩事務所に入れば、作りはどこも大抵同じらしい。
茶色の長椅子と立ち並ぶグレーのロッカーを見て、学生時代にバイトしたスーパーの記憶が蘇る。
大体似たような配置なら、壁際に――よし、掃除用具入れもある。
いざという時はあそこから武器を調達して・・・
「はすはす」
うわあ、すっごい雑音が聞こえる。
耳元にほど近い場所で聞こえてくる荒い呼吸に耐え兼ね、そばで、ほんとすぐ傍で佇んでいる日和くんを見やった。
彼の視線は私に向いてるのか、これから行われる怪しい動画みたいな光景を先走って思い描いているのか、とにかく興奮と期待にまみれていた。
すると対照的なほど涼しい顔をした東雲さんが、あっけらかんと「君は戻っていいんだけどね」と肩をすくめる。
「こんな楽しいこと俺も混ぜて下さいよぉ!(いや、店員として商品の説明を怠るわけには)」
いっそ清々しい程の心の声(ダダ漏れ)に絆されそうになるけど、慌てて首を振る。
1000歩譲って、言いたいことを飲みこもう。
この変態編集長には、合意の上じゃないとはいえ既にいろいろヤられている。
今までの経験上、私が本気で嫌がれば止める理性も持ち合わせてると言える・・・多分。
だから今から繰り広げられるのも、言うなれば仕事上の行為だ。
読者のためというなら、身体を張るのも致し方ない。
けどさすがに今日会ったばかりの日和くんにまで、みすみすと私の痴態を見せるわけにはいかない。
見た目は犬、行動も犬、この発情っぷりも完全に犬とはいえ、まだ21歳の年下の男の子だよ。
これじゃ私の方が痴女みたいじゃん、と半ば訴えるように東雲さんに声をかけ、日和くんに出て行ってもらうよう促す。
願いはちゃんと伝わったのか不安なとこだけど、東雲さんは日和くんの名前を呼び、ドアの方へと指を向けた。『ハウス』って感じ。
ホッとしたのもつかの間、項垂れた日和くんがドアノブに手をかけたところで東雲さんが「ストップ」と言い放つ。
「日和。拘束して耳塞ぐと目隠し、シチュエーションとしたらどっちが燃える?」
去り際にアンケート取ってんじゃねーよ!
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