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「編集者としてそれはまずいね。一度は自分の手で買ってみないと」
まずいのは予想出来てしまうこの後の展開である。
自分の身を守るため、すぐに視線をパソコンに戻し何も聞かなかったという体制を取った。
ああ、まだ4分の1も進んでない。
500人の女子の本音を探るためにはくだらないことに構ってる暇はないんだから。
えーと次は、彼氏と一緒にグッズを選んだことがある割合・・・
「そーだよ小雪ちゃん。俺が一緒に選んであげるから買ってみなって」
「今次さんの好みはレベルが高そうなんで良いです」
「んじゃどーいうのが好み?まずローターかバイブか」
「その時が来たら自分で選ぶから結構です!はい、ホントに忙しいんでもうやめて下さいね、お静かに」
いい加減、会話に参加してない真野さんがどんな状態でいるか気にしてよ。
只でさえ忙しくてイライラしてそうなのに馬鹿みたいに騒がれたら、絶対眼光鋭く――
「・・・」
やばい、別の意味で睨みを利かせてる。
ちらっと盗み見た先に静かな怒りの炎を湛えた真野さんがいて、慌ててキーボードを叩く音を大きくして誤魔化す。
あれは間違いなく『ライター自らが試したことのないものをネタにするだと?舐めてんのか』という目だ。
彼の仕事魂を味方につけられたら、私に勝ち目はない。
アンケート結果が並んでるはずの画面に『お客様ログイン』の文字が浮かぶかもしれない、そんな恐怖と闘いながら一心不乱に打ち込んだ。
「小見さん、まだコラム更新してないね。次の題材、初めてのアダルトグッズ店なんてどう?」
流されてはいけない、絶対に身を守らねば。
横から飛び込む不吉極まりない提案を右から左へ流し、打ち合わせでもしたのかとばかりに「そーっすねー」とへらへら笑う今次さんの足を踏みつけ、
あらぬ方向へ行きかけた運命に必死に抗う。
「そろそろ店の連中にも顔見せしないといけないだろうし、ちょうど良かった」
この状況で行ったもんなら最後、顔だけじゃなくいろいろ見せないととのたまうに違いない。
まだ会ってもない店員さんの代役を今次さんがし、脳内で私の未来が繰り広げられていく。
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