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通い慣れた道の一本奥へと爪先を向けてみる、たったそれだけで新しい世界が覗ける。
私はそれを何度も見つけた。何度も歩いてきた。
まるで童心に帰って、路地裏の冒険をするように。
そして今日もまた、新たな道に足を踏み入れる。
さあ、今度はどんな発見と、素敵な出会いがあるのだろう?
「あれ、随分歩くの遅いね。迷子になっちゃうよ」
遥か遠くを歩いていた東雲さんが、ふと後ろを向いて立ち止まる。
今次さんと違って無駄なおしゃべりをしない東雲さんは、私が大分後れを取ってることに今気づいたらしい。
そのまま撒いておけばよかった。
「初めての道なんで、いろいろ見ながら行きたくて。心配しなくても渋々ついて行きますから」
「そう。じゃあ今日は初めて尽くしになるだろうね」
さらに歩幅を縮めた私を見て、東雲さんがふっと鼻で笑い、また先を歩き出した。
すごく不吉な予言された感じなんだけど、気のせいですむだろうか。
東雲さんに連れられてやって来たのは、意外にも会社からそう遠くない、地元の商店街に通じる道だった。
いかにも昔ながらのと名付けられる町並みには、古美術や骨とう品、古書など歴史を垣間見れる個人店が並んでいる。
ほとんどがご近所や常連さんで賄ってそうな雰囲気で、店主もお客さんも同年代の輪を作ってのんびり話し込む姿を見る限り、ぶらぶらとウィンドウショッピングがてら立ち寄ってみる・・・という気にはなりにくい。
そのためか、若い世代やママグループなど平日のお昼時に見れる光景とはかけ離れていて、逆に私たちの方が物珍し気にチラチラ窺われた。
『歴男と歴女のカップルかねえ・・』
違う違う、もっと離れて歩こう。
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