第一章 別れる世界

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「俺を送る理由は生前の功績もあるが、実際は別の目的もあるな?」 「……いや、だからな……」  焦る口調に合わせ、札が輝きを増す。そのに対してシトはため息を吐いた。 「――わかった。俺に厄介を押し付けたいのか?」 「そう言う訳ではない! 妾は、お前の余生はお前に委ねるつもりじゃ!」 「……反応無しか。なら何か? その希望した世界には共通した問題でもあるのか?」 「問題なぞ、どの世界にもあるだろうに……」  ――回答の最中に明るみを見せる札に、閻魔もいよいよ気付く。 「……もしや、その札は真偽の術か?」 「どうやら此処でも有効らしいな。つまり、問題はあるようだな。やはり行かない方が無難な気がするな」 「まてまて! その~隠す気は無かったのだが……」  観念しての告白。別に隠すつもりは無かったのだが、最初から不安な材料を渡したくない心遣いは、見事方術を前に暴かれた。  これ以上、こそこそして仕方ないかと告げる。それは、何処の世界にもある程度の確率で別世界の人間を転生させる規約があり、優秀な人材程、問題がある世界を動かす為に送り込まれる。  それが革命軍や英雄と呼ばれる者、はたまた天才、発明家、大魔術師と呼ばれ、その世界を発展的させる切っ掛けを起こす。  つまり、有効な能力を他の地で活かし、その世界を手助けする役目を背負う事となるのだ。 「……と、まあ、お前の持つ能力、方術はどの世界でも類を見ない程に珍しい。そのチカラをほんの少しだけ別の世界で奮って欲しい訳なのじゃ」  簡単には言うが、それは世界をどうにかして導くなり、救えと言っているのと変わりはない。そんな大袈裟な話をされれば、ついつい口が半開きになる。 「方術師は便利屋じゃない。それに俺は闘うつもりは無いと言った」 「大丈夫だ。その辺はお前さんの意思に任せる。いや、何も……此処でお前程の逸材を極楽浄土に送るとなると……妾も……色々都合が悪くなってしまうのだ」 「閻魔の都合ってなんだ? まったく……あれか、そちらで好き勝手やって良いのか?」 「良い良い! ひっそり過ごしても構わぬし、なんなら世界の歪みを正しても構わぬ。それが嫌なら滅ぼしても良いぞ?」 「……お前は本当に閻魔か?」  どこぞのセールスマンが、買ってくれと言わんばかりに、自分が馬鹿にされている気分すら感じる。
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