第二章 異世界と自分の価値観

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 それにしても、容姿と言い、際立つ顔のラインからしても若そうだ。年齢は多分だが、十代後半……とは言え下手すれば十代半ばも考えられる。そんな事を思いつつも、此処では漸く名前を呼ばれる事に違和感を感じた。 「何故俺の名前を??」 「はい。申し遅れました。わたしは (エン)と申します。閻魔様の命により、シト様に仕える……その……奴隷です」 「……」  ちょっと考えた。閻魔が手筈してくれたのはわかったし、此処が既に異世界で無事に到着したのも理解したが……お供が居るのは予想外である。 「……閻さん、俺はあなたの事を聞いてないが、奴隷とはなんですか?」 「は、はい。まだ此方に来られたシト様がこの世界に関して無知なので、不敏な生活を送られては困るであろうと思い、わたしを一緒にさせ、助ける事となりました」 「……閻魔がか。ただ、俺は俺で勝手にするつもりなので、閻さんは帰って貰って良いですよ」 「――そ、それは困ります。……わたしはシト様を助ける為だけに存在する者です。不要とされると……困るのです」  喋り方が弱々しく、それでいて既に泣きそうな彼女を見ていて、逆に此方が困るのだがと思えてくる。 「……不要って訳ではないけど、せっかくの異世界ならば、お好きにお互いやるのが一番かと思いますよ?」 「……いえ、シト様……家事出来ますか?」 「そこまでは出来ないが、なんとかなるでしょう?」 「ダメです。家事全般はお任せ下さい。それにその姿だとご不便ではありませんか?」  ん? と思い自分を確認する。制服姿なのだが、背丈が少し縮んだのか、大きさが合っていない。 「これは……そうか、歳が若くなったせいか。髪の毛は変わらず黒いがなんか長くないか……それに、本当に若くなったのか」 「はい。その通りです。それでは失礼致します」  すると、閻の指先が此方を向けて、何やら詠唱を始める。聞き慣れない言葉が続いた後に、完成させると同時に光が身体を包み込む。  光が巻き起こると同時に制服がみるみるうちに変化を遂げる。それは制服の原型はなくなり、紫色を主体の薄手の祈祷服にも似た独自性の強いものへと変わり、その上に黒いマントを羽織る、和服姿になっていた。
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